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2018年1月1日掲載 山陽新聞・新春経済座談会「働き方改革・テレワーク」

      2018/10/22

地域活力に結実を 新春経済座談会「働き方改革」進め

岡山で先進的取り組み4氏 出席者(五十音順)
荒木組社長 荒木雷太氏
石井事務機センター社長 石井聖博氏
ストライプインターナショナル社長 石川康晴氏
フジワラテクノアート社長 藤原恵子氏

違法残業による過労自殺や過労死が社会問題化する中、「働き方改革」が注文を集めている。ノー残業デー設定、会議時間の短縮、在宅勤務…。長時間労働の是正や生産性向上につなげようと、岡山県内で先進的な取り組みを進める荒木組の荒木雷太社長、石井事務機センターの石井聖博社長、ストライプインターナショナルの石井康晴社長、フジワラテクノアートの藤原恵子社長の4氏に改革のきっかけや効果、今後の展開などについて語ってもらった。(文中敬称略)

1 取り組み

-多くの業種で人手不足という課題を抱える中、どのように働き方改革を進めていくのか悩んでいる企業は少なくない。各社の取り組み状況をお聞きしたい。

荒木 まずは、きれいで働きやすい環境づくりが重要だと考え、工事現場の仮設トイレを温水洗浄便座にしたり、現場を囲う仮設塀のデザインを統一したりした。汚いというイメージを払拭し、モチベーションを高めた。その後、労働時間の短縮に取り組み、始業や終業時間を早めたり遅くしたりするフレックスタイムを導入。月間残業時間を予想して事前申告する制度も始めた。実際の残業時間との差を分析し、上司が相談に応じている。

石井 子育て中の女性らが活躍しやすい環境づくりと生産性の向上を目指し、在宅勤務制度「テレワーク」を2016年に取り入れた。当社が取り扱う最先端のICT(情報通信技術)機器を活用。職場と自宅をオンラインで結び、自宅で業務ができる体制を整えた。当初は希望者だけだったが、現在は全社員に適用している。会議はインターネットを通じて行い、セキュリティーも万全にしている。いわば、IT時代に即した「働き方」を自社で実証し、それを提案していくビジネスモデルだ。OA機器の販売だけでは他社と差別化できないと考え、取り組んでいる。

藤原 私は01年、前社長だった夫の急逝で会社のかじを取ることになった。主婦だった私に何ができるのか考えた。その答えが、社員が働きやすい職場づくり。産休・育休制度を整えるとともに、男性社員の意識改革にも取り組んだ。職場の理解がなければ制度は普及しない。風通しの良い会社を目指し、社員旅行や花見といった社内行事も充実させている。残業は原則午後9時までとし、木曜日はノー残業デーに設定している。

石川 結婚や出産などを機に退職する女性社員を減らそうと、4時間と6時間の短時間勤務制度を11年に導入した。金銭的な不安を取り払うため、育児扶養手当も取り入れ、18歳未満の子どもがいる社員に最大で月3万円を支給している。このほか、10歳未満の子どもを持つ親には「キッズ休憩」を月1回取れるようにした。残業抑制に本格的に取り組み始めたのは11年度から。まずは「午後10時に退社」という大号令をトップダウンでかけた。増員やIT活用、会議時間の短縮、生産性の低い業務の見直しなどを行い、退社時間を徐々に早めていった。今では午後6時5分には消灯し、退社を促している。

2 背景

-残業時間お短縮など、労働環境の改善に取り組むことになったきっかけや業界背景などについてお伺いしたい。

石井 幼い子どもを持つ女性社員と職場の人間関係が背景にある。子どもが病気になってしまうと、保育園では預かってもらえず、急きょ会社を休んで看病しなければならない。インフルエンザだと休みは1週間にも及ぶ。私たちのような人数が限られた中小企業は一人でも休むと、他の社員にしわ寄せが及ぶ。口にはしないが、その不満は増大していく。休む側は職場の雰囲気を察して「迷惑をかけている」と気まずい思いをしてしまう。同様の問題を抱える企業は少なくないはずだと考え、自社でテレワークを実証することにした。

荒木 工事を「早く終わらせてほしい」という施主からの要望があるとともに、工期が延びれば会社の利益が圧迫されていくのが建設業界。現場には当社社員だけでなく、協力会社の作業員さんもおり、工期の長短はその収入にも影響してくる。一般的なオフィスとは全く異なる環境の中で、私たちが働き方改革を推進するには業界特有のカルチャー(文化)を変えなければならない。そこで施主の協力で工期を延長してもらい、4週間で6日以上休む「4週6休」の導入を試みているところだ。

藤原 きっかけはある女性社員の妊娠だった。とても有能な人材で他の社員からも人気がある方だった。「主産後、必ず復帰してもらえるよう環境を整えて」と別の社員から声が上がったほど。一方で、当時は女性が産休・育休を取ることに否定的な男性社員もいた。少子高齢化が進み、女性の力を活用しなければ、厳しくなると考えていた頃。制度創設だけでなく社員教育にも努めた結果、01年以降で出産を機に退職した女性はゼロ。近年では男性も家事や育児に参加すべきという考え方が浸透し、定時で家路に就く男性社員も増えている。

石川 1994年に創業してから15年間は、会社の急激な成長に合わせて、社員が猛烈に働く企業文化だった。だが、男性管理職が午後11時まで会社に残って仕事をするような組織だと、女性社員は管理職になるのをあきらめてしまう。子どもを保育園に預けられるのはせいぜい午後7時ごろまで。女性社員の意見や要望を聞き取り、自分たちにふさわしい制度を創り上げようと努めた。

3 効果

―はたらきやすい職場づくりで得た効果は。

石川 「ホワイト企業」を目指し、6年前から働き方改革に取り組んできた。全社員の月間平均の残業時間は8時間まで減少した。残業時間抑制はまさに「万能薬」で、新卒者の離職率も10%台前半までダウン。個々人にあった働き方を推奨した結果、女性を管理職に登用しやすくなり、現在の女性管理職比率は53%になった。口先だけで環境改善を言ってもSNS(会員制交流サイト)で拡散されれば、すぐに露見する時代。私たちの取り組みが評価されたのだろう。学生が選ぶ入りたい企業ランキングを上げることもできた。

石井 テレワークは在宅勤務のため、電話や来客対応の必要がない。通勤時間もなくなり、生産性を大きく向上させられた。特に女性社員らの満足度が高まっている。残業時間は全社で52%減り、売上高も前年度から17%アップした。ただ、働き方改革はやみくもに取り組んでも成功はしない。重要なのは順番を間違わないことだ。まずは「意識改革」が必要で、次に働きやすい「環境の設備」。続いてパソコンの強制終了といった「ルールづくり」を行い、最後に社員個々の生産性の「評価」をしなければならない。

荒木 さまざまな取り組みで当社社員の残業時間はかなり減ったが、協力会社の作業員さんらについてはまだまだこれから。1日単位で給与を計算する日給制の場合もあり、働き方改革を行うと実入りが減るという難題も内包している。協力会社の経営者の意識から帰ることが必要で、彼らを対象としたセミナーを開催。少しずつだが変化は見え始めている。工期にゆとりを持たせる「4週6休」の現場も増え、荒木組の現場にきたいと言ってくれる作業員さんは多い。

藤原 当社の製品生産はすべて、取引先の要望を聞き取り、使用を変更するオーダーメード方式。受注状況によって繁忙期と閑散期の波があり、1年を通じて仕事量を平準化するのは難しい。このため残業時間の画期的な抑制は困難な面がある。ただ、長年の取り組みや教育で社員に働き方改革の意識が浸透してきた。営業担当社員も納期が重ならないように調整する意識が芽生え、以前のような大きな波はなくなりつつある。当社の取り組みが外部や若い人たちに伝わったのだろう。採用面でいい影響が出ており、優秀なスキルを持った女性社員の採用増につながっている。

4 今後の展開

―今後の方向性や目標などについてお聞かせ願いたい。

藤原 当社では30年後を見据え、新たなビジネスの種を育てている。醸造には欠かせないさまざまな菌の活用がそれだ。例えばしょうゆかすの再利用やおむつの分解促進と再生…。その成功には若い社員の力が必要、彼らが上からの押し付けではなく、誇りと夢を持って成し遂げられるような企業を目指す。私としては、働き方改革で生み出された時間を少しでも子育ての時間時割いてほしいと願っている。それらの取り組みは「教育県岡山」の復活にもつながっていく。子どもを安心して育てられる環境が整えば人口や雇用が増え、地域の活力になるはずだ。

荒木 残業時間短縮や休日取得は注目されがちだが、働き方改革はそれだけではない。外部に委託した調査で社内コミュニケーションにストレスを感じる社員が多いとの結果が出た。そこで「ありがとうカード」を導入した。日々の仕事中に沸き起こった感謝の気持ちをカードにして相手に渡すようにしたところ、随分と風通しがよくなった。そう遠くない将来、多くの仕事AI(人工知能)がこなす時代が来る。AIでも可能な仕事、ルーティンワークで満足するのではなく、部署が担う高度な仕事に目を向け、質とスキルを高められる社員を育てたい。そのためにも多様な取り組みで社員のモチベーションを高めていきたい。

石井 働きやすい環境づくりに終わりはない。ただ、従業員が数百人以上の大企業と数十人以下の中小企業ではその方法は大きく異なる。AIやIoT(モノのインターネット)はオフィスや現場にどんどん導入されていくし、今後も進化を続けていく。導入すれば中菱企業も劇的に変革できるチャンスとなる。まずは私たちの会社で実証して、より良い環境づくりのモデルを提案していければと考えている

石川 高齢化社会を考えたとき、今後の焦点は「介護」。社員の平均年齢は28歳と若く、差し迫った危機ではないが、20年後には大きな問題となりうる。介護が必要な方々の症状はそれぞれ異なり、療養期間も違う。一つの仕組みではサポートしきれないだろうし、どのような制度にするべきかをしっかりと検討して準備したい。働きやすい職場づくりに向け、他企業のまねではなく、社員の生の声を聞き取りながら、ストライプインターナショナルならではの制度にしていきたい。

IT時代に即した在宅勤務制度導入――石井社長

石井聖博社長
いしい・まさひろ キヤノンマーケティングジャパン勤務の後、2006年石井事務機センター入社。常務を経て15年2月から現職。帝京大経済学部卒。岡山市出身。38歳。
石井事務機センター(岡山市南区福浜町)1911年創業、69年設立。
オフィス用品販売業。資本金5300万円、売上高5億1700万円(2016年12月期)、従業員30人。

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