2018年1月27日発行 日本経済新聞出版社発行・日経MOOK「テレワーク」
2018/10/22
就労継続、生産性向上、採用活動・・・・・・
中小企業の課題を解決する手段に1911年に文房具店として創業した株式会社石井事務機センター。
時代の流れとともに、近年ではオフィス機器・OA機器の事務用品の販売を行い、2016年には新事業「ワークスマイルラボ」をスタートさせた。
中小企業で深刻な人材不足の解決策を模索
岡山県岡山市にある石井事務機センターは、中小企業ながらテレワーク導入を成功させている。石井聖博社長は2015年の就任当時を「価格競争が激しく、業界全体が衰退しているような状況で、新しいビジネスモデルが必要だという思いがありました」と振り返る。
石井社長が定義した新事業は、単に商品を売るのではなく、その先の「笑顔溢れるワークスタイル創造提案業」だ。同社は自社オフィスを「ワークスマイルラボ」とし、よりよい働き方を研究、実践する場とした。
当時の同社、そして中小企業の課題の一つが人材不足だった。
例えば、子育て中の社員の場合、子どもが体調不良のときは、子どもを見てくれる人がいなければ、社員は会社を休まざるをえない。もし子どもがインフルエンザにかかれば、5日間は出勤できない。そうなると、同僚の残業時間が増え、職場への負担につながってしまう。中小企業の場合は特に、こうした一人の穴が大きい。よりよい働き方への打開策として同社が行き着いたのが、自宅も会社と同じように働ける環境をつくれないかという考えだった。「ワークスマイルラボ」で実践全社員導入までのステップ
同社はツールや運用方法、ICT環境を整備するための下調べをし、試行導入を実施。すると、労務管理、コミュニケーション、情報セキュリティの三つの課題が出てきた。「中小企業の場合、自社システムをつくる資金もなく、運用できる人材もいません。そこで、目をつけたのが既存の商品・サービスを見つけてきて活用することでした。テレワークに使うことを目的としていなくても組み合わせることで、比較的安価に、運用は簡単にできます。それで足りない部分は社内で運用ルールをつくり、補完するというのが中小企業にあったテレワーク運用だと思います」と石井社長。
同社でのテレワーク導入には四つのステップがあった。
① 意識を変えてもらう
「生産性を高めないといけない」と社員に意識を変えてもらう。
② ルールをつくる
20時半になったらパソコンが強制的に切れるなど、強制力のあるルールをつくる。
このステップについて石井社長は、「①の効果があまりなかったからと、すぐにルールをつくってしまいました。これがよくありませんでした。会社からは帰れても、業務としては帰れる環境・状況になっていないため、持ち帰りの仕事が増え、社員のモチベーションも下がってしまいました。ルールをつくる前に、生産性を変えるための環境を整える必要がありました」と振り返る。
③ ICT環境と整え、全社員に導入
④ 評価制度を変える
人事生産性での評価を導入。仕事のやり方を変えるための環境を会社が用意し、仕事のやり方を変えなくてはいけない状況をつくり、最終的には評価に連動させた。
これら四つのステップについて石井社長はこう語る。
「これまでの仕事のやり方を続けていては、評価につながりませんという姿勢、経営者の覚悟、会社の方針を示すことも必要です。50名、30名以下の企業では社長のリーダーシップが必須です。テレワーク導入に限らず、仕事のやり方を見直して、生産性を高める必要があると社長が示し、全社員に意識して取り組んでもらうことが、中小企業の働き方改革で大切なポイントだと思います」
生産性のアップ以外にも大きな導入効果
テレワークの場合、電話を取ったり、来客対応をしたりはできない。しかしその分、集中して仕事に取り組むことで、生産性の向上を感じた同社。それまでのテレワークの活用は急な休みが必要になった人への対応策だったが、プライベートの時間が増え、生活にゆとりが生まれたなど、社員からの好意的な意見もあり、利用範囲の拡大を進め、2017年6月に、全社員にテレワークを導入した。結果、昨年比で残業時間は隙間時間を活用することで51・8%に削減され、売り上げは106・7%を達成している。
同社はテレワーク導入メリットに、採用活動への効果も挙げる。テレワークを中心に社員の働き方を整えたこと、その実績がメディアに取り上げられたことで、学生が興味をもち、新卒採用2年目の今年、採用選考の面接実施人数が昨年の2倍になったのだ。
中途採用の場合も、在宅勤務が可能である利点は大きい。現在、同社で広報担当の元井あゆかさんも、在宅勤務可の求人が入社のきっかけとなった一人だ。「正社員として働きたい気持ちがあっても、子どもが小さいうちは難しいと思っていました。今、午前は在宅、午後は会社でなど柔軟な時間で勤務ができ、ありがたいですね」と話す。
今後の展望は共有型サテライトオフィス開設
社員からの「家に仕事をもちこみたくない」という声を受け、同社は岡山駅近郊などにサテライトオフィスを構想中だ。中小企業が1社で専有のサテライトオフィスを実現するのは難しいが、同社の顧客と共有するサテライトオフィスにすれば、同社、顧客ともテレワークのさらなる活用が期待される。
また、県庁所在地である岡山市の企業と、そこから車で1時間半ほど移動した市とでは、採用力に格差がある。同社は、そうした市にある企業にも、同社が構想するサテライトオフィスを活用してもらえるのではと考えている。営業や経理など、働く場所が限られない職種であれば採用の可能性が広がるだろう。地域企業の活性化をめざし、今後はこの働き方を日本の中小企業に広めていきたいという。