2017年7月掲載 岡山商工会議所会報『glocal』「テレワーク」
2018/10/22
「働く」に笑顔を!ワークスタイル創造提案業の誕生
「プレミアムフライデー」など働き方改革が注目を集める中、多くの企業がその取扱いに頭を悩ませている。そういった悩みを、オフィス環境の改善、在宅勤務の導入によって導く企業がある。㈱石井事務機センター、元々一般的な事務機器の販売会社だった同社が、新規事業「ワークスマイルラボ」の立ち上げによって「より良い働き方」の創造を支援する企業として多方面から注目を集めている。今回は同社の進化の過程に迫る。
明治創業の老舗
今から遡ること100年ほど前、明治44年に岡山市内で誕生した文具店「石井弘文堂」が同社の起源にあたる。創業当時は墨・筆から万年筆や鉛筆へと文具が変化する時代で、文具の卸販売と自家製ノートのヒットにより急成長し、戦前は従業員数100名を超す大所帯だった。しかし、岡山空襲により人・店舗・商品をことごとく失い、土地も戦後の混乱の中で不法占拠によって失った。
終戦の翌年、初代の石井哲司氏が急逝、廃業に危機に陥る。その際、幸運にも二代目の堅一郎氏が復員したことで何とか事業の継続は可能になったものの、闇市で商品を仕入れ、リアカーで販売するというゼロからの再出発となった。その後、高度経済成長など景気の拡大局面の中、急成長する地元企業からの事務用品の需要が高まり、業容が拡大した。昭和44年に「㈱石井事務機センター」に社名を変更している。
昭和57年、三代目に就任した英行氏の時代ではFAXやコピー機などのOA機器の普及が急速に進み、その後のITの進展から売上が急速に伸び、同社は絶頂期を迎えた。ところが禍福が繰り返されるのは世の常、またも大きな転機が訪れる。
21世紀を迎えた頃には、官公庁への販売不振やネット通販の浸透によって業績は悪化の一途をたどり、平成20年のリーマンショックで取引先は激減、会社は壊滅的な打撃を受けた。直前の平成18年、最悪のタイミングで入社した四代目の聖博氏は営業を担当していたが、同業他社との競争、激化する価格競争が危機的な状況にあり、営業面での奮闘をもってしても見通しは立たなかった。そして、廃業するか否か、厳しい選択を迫られていた。
経営改革
葛藤の末、聖博氏は父の英行社長と再起を誓う。「従来の体質、やり方を一新しなければ活路はない」と、差別化の難しいこの業界で、顧客のニーズに合う新しいビジネスモデルを模索し始めた。
平成27年、代表取締役に就任した聖博社長は、営業がカタログを持って取引先を回るビジネスモデルでは他社と差別化が難しいと考え、「売るもの」「売り方」の革新を決断する。「従来は商品を売ることを主眼に置いた商品ありきのセールスでしたが、本当に顧客が求めているのは商品の導入によって得られる『より良い働き方』でした。
また、売り方もこちらが出向いて説明するのではなく、実際の働き方をみていただいたほうが本当の良さが伝わる」と聖博社長。そのコンセプトから昨年生まれたのが「ワークスマイルラボ」、通称ワクスマ。オフィスの課題を解決するためには何が必要か徹底的に研究し、理想的なオフィスモデルを作り上げ、自社内でそれをショールームとして公開する。
働き改善や5S、残業対策等に対応し生産性が向上した快適な働き方、社員の笑顔が溢れる明るい働き方のイメージを直に提供することで顧客の共感を得ることを目的としている。
メインターゲットは同社と同じ30~50人規模の中小企業。始めて1年のサービスだが企業はもちろん各種メディアからも大きな注目を集める。ワクスマからの売上は事務用品の総売上の3割を占め、将来的には一層の拡大が期待されている。
より良い働き方を
ワクスマでは日々、新しい働き方を研究しているが、中でも脚光を浴びているのが在宅勤務だ。ネットを通じてデータ管理、文章・デザイン作成を自宅で行う取り組みで、育児中、介護中の世代の活用にと期待が寄せられる。
残業対策では、パソコンの定時強制シャットダウンシステムや、ユニークなものでは職場にネットワークカメラを設置し、上司が職場の様子をスマホでチェックし部下に帰宅を促すといったようなものもある。様々なアイデアを組み合わせることで、各社にあった効率的で快適な働き方の提供を目指している。
ワクスマを運営する中で思わぬメリットもあった。来春卒業予定の大学生らの希望就職先ランキングで、新卒採用を始めて2年目にも関わらず12位にランクインした。
「BtoBの会社で社名も知られていない我が社でも結果を出せたということは、いかに働き方への注目度が高いかが実感できた。お客様に採用面でのメリットもアピールしたい。」と意気込む。また、在宅勤務や残業対策などを研究・実践していく中で社員の満足度や意識も向上し、相乗効果が生まれている。
これからの展望については「ワクスマのビジネスモデルを確立し、全国にFC展開していきたい」と語る聖博社長。度重なる苦難を乗り越えた同社は、更なる高みを目指し飛躍する
自宅に居ながら同僚とFace to Faceで仕事をする同社社員。この取り組みが評価され昨年、総務省「テレワーク先駆者百選」を受賞した
平成27年、35歳という若さで社長に就任した石井聖博氏。リーマンショック後の苦境のさなか「パソコンパトロール」「ワクスマ」など新しいビジネス構想を打ち出した